10月26日
本日付の日本経済新聞朝刊の16面に「公正なMBO対価問う」との記事がありました。
レックス、サンスターの例をとり対価に不満な株主の勝訴も例をあげています。
それによれば「MBO直前の業績修整など不透明な手続きは許さないと、改めて厳しい姿勢を示した」との池永朝昭弁護士のコメントを載せている。
それに対し株主の主張を退けた例としてサイバードホールディングスの例を取り上げており、その理由として、
① 同社社長が買収ファンドに対して買付価格の引き上げを求めるなど、「厳しい態度」を示した。
② 同社と買収ファンドから独立した第三者評価機関に株式価値の算定を依頼した。
③ 社外取締役を含め双方から独立した者で構成される第3者委員会が、買収ファンドと協議・交渉したうえで、取締役会にMBOについての意見提出書を委託した。
株主と経営陣の利益相反を抑制する措置も取られていたとの評価された例をあげています。
つまり、経営者は株主の利益を図り出来る限り高く売る、株主に入る対価を多くしようとの努力が認められたとのことですね。
では措置、この場合手続ですがさえ取られれば公正なのか?
この問いに関してはシャルレの例をあげてその問題点をあげています。
見かけは手続きが適切でも「経営者自ら交渉に加わったり、MBOに反対する実質的な権限が第三者委員会になかったりすれば、骨抜きになるリスクを排除できない」との清原建弁護士のコメントをあげております。
さて今回の吉本興業の場合はどうなのか?
まずこれは
① MBOではなく第三者による友好的買収である。
② 第三者評価機関の買収者と吉本興業が算定を依頼している。
③ 第三者委員会を設置している。
④ 決議する取締役会には新吉本興業?に残る取締役3名(今回の被告ですが)は出席していない。
と見事に手続きを踏んでおります。
さて①についてですが、今回の吉本興業においては第三者による買収の形を持たせた実質的MBOと考えております。
理由としてホームページの提訴の主旨、訴状にも書いておりますが
1)現経営陣が高額の報酬を約束されて残ること。
2)出資者が各放送局、ソフトバンク、京楽産業など吉本興業と共同で事業を
している会社であり、クオンタム・エンターテイメントが出資者を集めたのではなく、
吉本興業が声をかけて回ったと考える方が自然であること。
これらから見るに吉本興業側がこの話に積極的であると考える方が自然です。
②についての第三者機関による算定ですが
対象 算定機関 市場市価法 類似会社比準法 DCF法 DCF法(注)
会社側 アビーム 932~1292 974~1171 1218~1441 1331~1515
買付者 GCA 983~1291 924~1218 1289~1604
(注)はアビームが公開買付者計画に基づき試算したもの
のように買う方の買収機関の方が売る方より高く算定している。
公正な算定結果と言えばそれまでですが、普通はそれぞれ圧力もあり買付側の方が安く買いたたこう。売りつけ側は高く売りつけようとするのが普通ではないでしょうか?
ところが何故か深い議論の後もなく、1,350円とあっさり決まっています。
つまりまず買収ありきで値段はさほど問題ではない。とみるべきか。
これについては後述。
結局、利益相反の問題に対する措置が不十分であるといえないでしょうか?
③ についてですが第三者機関の会合は6回となっています。
述べ何時間の会議かわかりませんが、それだけで十分論議されたのかは不明です。
(第三者委員会報告書が提出した報告書が
に掲載されていますが、ここにも今回のケースが利益相反の可能性を持つことを考慮して検討された旨を述べております。我々はファンダンゴから始まる資金の流れも不審に思っており、この上場廃止は決算を隠し、追求から逃れるため。いやもしかしたら監査法人あたりが意見を出し始めて上場維持が難しくなったのでは?と考えていますが、第三者委員会はその辺の事情まで知っておられるのかどうかは不明です。
第三者委員会はどうしても短期間で
1)買収決定時点前後の限られた期間における経済的合理性、事情
2)その他外形的手続きの公平性。
を論拠に適正・不適性との判断をせざるを得ませんが、どういう場合に「不適正」って意見がでるんでしょうね?
(1)「株主からの圧力から逃れて長期的な視野に立った経営」
それを言ったらあるゆる上場企業に当てはまる気もしますが。
また外部のファンドからの方が圧力が大きいような気もします。
ましてや今回は266億円のキャッシュが無くなるわけですから長期的視野に立った場合、どちらが合理的なのか疑問が残ります。
(2)「上場維持にかかるコストが多大」
しかしそのコストまでも踏まえて株主は納得して保有しているわけで、オーナー企業ならいざ知らず、そのコストも飲んでいる株主が了承した役員がそれを理由に株主を放りだすことはなにか論理的におかしい気もします。
また手続きの正当を論拠に正当であると重ねるのは外形的基準さえ整えばなんでもありということにつながります。(まあ世の中そんなことは多いですが)
そう意味で「不適性」でなければ「適正」であるということで中間はありません。
「だめだとは言わないけど、非上場化を是非やるべきだとも思えない」
こんな意見はまず出ないでしょうね。
④ についてですが、直接利害関係のない役員で決議されたとの事。
ところで、このスキームの推進役の役員が社内で厳然たる権力を握っていると思われます。
関係者からいただいたメールが正しいならば恐怖政治とも言える統治がなされている可能性もある。その中で反対を唱えられるものでしょうか?つまり誰も逆らえなくなっている可能性も感じます。
しかも取締役会決議を行う取締役3人、監査役2人は常勤が各1名だったと思いますが、このような取締役会で決まったから適正といえるのでしょうか?
以上の点から今回のTOBに関しては疑問だらけと考えます。
なぜそこまでして株主を放り出す必要があるのか?
「はい、そうですか」とはやはり言えないですね。
通常のMBOなら役員が株式をもつのですが、今回は役員は株式を引き受けません。
だからMBOではないと言われても、「要するにリスクをとりませんが、経営はやります。報酬はそれぞれ1億円(上限)ですよ」という役員にとっては非常においしい話となります。
買収にかかる融資の連帯保証人にそれぞれなりますが、
買収資金506億円のうち
放送局等出資が190億円。
メザニン出資が50億円のため
実質融資は266億円程度になります。
ところが会社の手持ち現金が124億円
保有有価証券が80億円
未収還付法人税が50億円。
これだけでほとんど返せます。みごとに計算があうので、これが1,350円の根拠か?とも思えますが。
さらにTOB後、第三者割り当て増資80億円を予定していますので運転資金も大丈夫。
連帯保証人になっても、うまくいけば役員になんのリスクもないように計画されているように考えられます。
出来すぎですね。
2ちゃんねるでその記事を見ました